債務整理|過払い金の判例

たも
MI
進捗


主文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 控訴の趣旨

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金3905万3106円及びこれに対する平成16年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

事案の概要は,次のとおり付加・訂正する外,原判決の「第2 事案の概要」のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正
(1) 原判決2頁15行目の「不法行為」を「債務不履行又は不法行為」に改める。
(2) 原判決4頁25行目の「原告の署名押印をした上」を「控訴人の署名押印を得た上」に改める。
(3) 原判決5頁9行目の「交付したことにより,」の次に「期限前返済に係る損害金について後日不当利得返還請求をする旨の告知は撤回され,」を加え,同10行目の「合意」を「確定的合意」に改める。
(4) 原判決7頁17行目の「ことにより,」の次に「被控訴人は,その債務不履行に基づく責任を負う。また,被控訴人の担当者は,」を加える。
(5) 原判決7頁23行目の「法4条ないし」を「法4条,民法415条ないし」に改める。
2 当審で追加された争点
争点(5) 被控訴人の損害金請求が権利の濫用にあたるか−主位的請求関係
(控訴人)
仮に,控訴人が支払を怠り,期限の利益を喪失した場合,被控訴人が控訴人に対して請求できるのは,残元本と経過利息及びこれらに対する日割りの損害金だけである。
これに対し,控訴人は,借り換えの上,残元本及び経過利息を支払ったのに,かえって莫大な違約金を請求されている。
これでは,誠実に債務を履行した債務者ほど損をすることになり,被控訴人の損害金請求は権利の濫用である。
(被控訴人)
控訴人の主張は前提自体に誤りがある。控訴人において返済につき不履行があった場合には,本件と同様,損害金を払わねばならない。

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第3 当裁判所の判断

1 争点(1) 控訴人・被控訴人間に( 本件契約解消に伴う損害金支払に関する合意が成立したか)について
争点(1)についての判断は,原判決の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決8頁6行目の「合意」を「確定的合意」に改め,同15行目の「手続をすること」の次に「及び上記相殺処理によって本件契約自体は解消させること」を加え,同16行目の「到底解されず,」の次に「また,Aが本件払戻手続を現実にしたことをもって,後日不当利得返還請求をする旨の告知を撤回したとも認めがたいから,」を加える。
2 争点(2)(本件特約イの有効性及びこれに基づく損害金額)について
(1) 前記前提事実及び証拠(乙1,2)によれば,控訴人と被控訴人との間において,@本件契約の金利は,当初半年間は変動金利(年1.725%)でその後の9年半は固定金利(3.855%)であること,A期限前返済は行わないこと(本件特約ア),B上記Aにかかわらず,やむを得ない事情により貸主(被控訴人)の承諾を得て期限前返済を行う場合,借主(控訴人)は,被控訴人所定の方法により算出した損害金,費用又は手数料を支払うこと(本件特約イ)を合意したものと認められる。
この点,控訴人は,本件契約の締結にあたり,その金利の約定その他の約定の詳細について知らなかった旨主張するようであり,控訴人(甲10)及びAの供述(甲15,原審証人A)には,これに沿う部分がある。
しかしながら,利息約定その他本件契約に適用されるべき契約条項は,本件契約書(甲2)及びこれに適用される規定(甲3)に明記されているところ,証拠(甲10,11,乙6,原審証人B,同A)によれば,控訴人は,本件契約に当たり,かねて知り合いであったC(元銀行員で不動産業を営む者。以下「C」という。)に相談をしており,Cは,控訴人側関係者として被控訴人担当者と本件契約に関して複数回交渉を行い,契約締結日にも立ち会っていたこと,契約締結日においては,控訴人の夫であるDの意思確認のため,控訴人側の弁護士(なお,控訴人訴訟代理人とは異なる。)も立ち会っていたことが認められ,これらからすれば,控訴人側も,本件契約締結に当たり,本件特約を含む契約条項(甲2,3に記載されているもの)については十分認識した上で契約をしたものと認められる。
(2) 次いで,本件特約イの有効性及びこれに基づく損害額について判断する。
ア前認定事実,証拠(乙4,5)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認められる。
本件契約は契約締結の半年後からは9年半の長期にわたり固定金利となるものである。
貸主である被控訴人は,この種の長期固定金利によってなるべく低利の融資を実現するためには,金利上昇のリスクを回避する必要があり,これをカバーする取引として,市場において第三者との間で融資金相当額について金利スワップ契約(市場から変動金利を受け取り,固定金利を支払う)を締結している。本件もその例外ではなく,これは他の銀行でも広く行われている一般的な取り扱いでもある。
そのため,借主である控訴人が本件契約で合意した返済内容に反して期限前返済した場合には,上記カバー取引のみが残存し,被控訴人は金利低下のリスクを背負いこむことになる。
そこで,被控訴人としては,これを避けるため,控訴人に代わる第三者を相手として,本件契約と同条件で,期限前返済された元本相当額につき固定金利を受け取る契約を結ぶ必要に迫られるが,実際上,本件契約と同条件で固定金利を支払う第三者を見つけ出せるわけではない。
そうすると,期限前返済が行われた場合には,被控訴人は,本件契約上の約定利率による利息額と期限前返済後の残存期間に再運用することで期待できる利率による利息額との間の差額等の損害を一方的に負わされることになりかねない(市場金利が上昇していれば,損害は生じない。
そこで,被控訴人は,期限前返済を禁止し,やむを得ない事情による場合には,被控訴人の承諾を要するとし,本来請求できたはずの約定利率による利息額そのものではなく被控訴人所定の算出方法による上記差額による損害金等に限ってその支払を条件として,期限前返済を認める余地を残した。
被控訴人としては,その趣旨を定めるものとして,本件特約イを置いた。
同特約による損害金等の文言は,前記(原判決の第2の2の(3))のとおりであり,被控訴人の説明する同特約の内容は,原判決添付別紙「被告主張の本件損害金の算定根拠」のとおりである。
イ本件特約イによる損害金等の文言は,「期限前返済された資金をこの契約と同条件で第三者を相手として再運用すると仮定した場合にその第三者に支払うこととなる金額」というものであって,これは「本件契約と同条件で固定金利を支払う再運用先を見つけようと仮定すれば,その再運用先に補填しなければ再運用が実現できないであろう金額,すなわち本件契約上の約定利率による利息額と期限前返済後の残存期間に再運用することで期待できる利率による利息額との間の差額」という意味を有するものと解されるが,一般には,その詳細な理解は困難であり,再運用によっても生じうる損害を賠償することになるという程度の理解を得られるにすぎないという他ない。
しかしながら上記(1), のとおり,本件特約イが,本件特約アを大前提とし,ただ,例外的に被控訴人の承諾がある場合に限って,被控訴人所定の方法により算出した損害金等の支払を条件として期限前返済を認める余地を残したものであることは,その規定の体裁上も明らかである。
そうすると,控訴人は,被控訴人に対し,被控訴人の意思に反し,期限前返済を行う権利はなく,期限前返済を受け入れるかどうかは,被控訴人の意思如何によるものであるから,もともと本件特約イを置く意味は乏しいのであって(期限前返済禁止特約のみが存在していても,被控訴人が控訴人の申出に係る期限前返済を了解しさえすればそれが可能なことは,本件特約イを待つまでもなく,当然のことである。),本件特約イが「銀行所定の方法により算出」などという抽象的な文言を用いていることをも併せ考えると,期限前返済に関する本件特約の構造は,@まず,期限前返済が禁止されることを確認した上で,A本件特約イにおいて,禁止されている期限前返済を行うためには被控訴人の承諾を要するし,その場合でも期限前返済された資金を再運用しても生ずる損害金等の支払が承諾の条件となるという点について予め注意喚起しておき,B損害額等は,控訴人から申出があった際に,被控訴人所定の方法で算出することによって具体化され,Cその損害額を前提にしても控訴人が期限前返済の希望を維持し,被控訴人が承諾する場合に期限前返済が許容されるという段階的な構造を採っているものと解される(当事者間において,損害額の判断に相違がある場合は,被控訴人の承諾は得られないから,結果的に期限前返済は許されず,本件契約で定めた金利を返済期間中支払うことになるが,これは当初の合意内容そのままであるから,控訴人に対し,不測の損害を与えるものではなく,他方,被控訴人に対し,契約以上の利益を与えるものでもない。)。
したがって,本件特約イの内容が上記の程度に明確性を欠く点があるからといって,同特約はもともと期限前返済が許容される条件について一般的・概括的な注意喚起をしておくという意義を有するにすぎず,後に損害額は具体的に明らかにされるものであるから,期限前返済に係る特約が無効であるということはできない。
また,控訴人は,本件特約イにおける損害金の文言が「期限前返済された資金をこの契約と同条件で第三者を相手として再運用すると仮定した場合にその第三者に支払うこととなる金額」とされている点につき,同条件で再運用することはできないのだから,これは不能条件を定めるものゆえ無効であるなどと主張するが,「同条件で再運用すると仮定した場合」というのは何ら法律行為の附款を定めたものではないから,同主張はその趣旨が不明であるという外ないし,再運用先の第三者に損害金相当額を支払えば同条件での再運用も不可能とはいえない。
ウ証拠(乙3,5,8)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件契約が元本逓減型であることに即し,所定の方式により,契約上の約定利率(3.855%)による利息額と期限前返済後の残存期間(約9.166年)に再運用することで期待できる利率(1.198%)による利息額との間の差額等の損害額を算出したところ,その金額が3905万3106円となったことが認められる。
上記特約の構造に照らすと,控訴人は,被控訴人が期限前返済された資金を再運用することによっても生ずる損害金として算出された損害額を前提に,本来禁止されている期限前返済の申出を維持するかどうかを判断すべきであり,被控訴人が予め金利上昇のリスクを織り込んだ高利の利息を定めておきながら控訴人の窮迫等に乗じて著しく高額の損害金を提示する等の特段の事情のない限り,損害額の当不当を問うことはできないと解するのが相当である。
本件において,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
この点,控訴人は,被控訴人の金利スワップ契約が控訴人とは無関係であるから,被控訴人が上記再運用期待利率につき,円・円スワップマーケットにおける固定払いサイドのレートを用いるのは不当であるとか,本件契約は9.5年間固定金利であるから,期間が少しずつ長期化する複数のスワップの利率を平均化するのは不当であると主張するが,再運用を観念する場合の指標は固定払いサイドのレートであって,本件契約が元本逓減型である以上(弁論の全趣旨),上記算出方法が不当ということはできない。
また,控訴人は,被控訴人主張の損害金は,控訴人が借りていた日数に比して高額に失するから,利息制限法等に違反するなどと主張するが,同違反の事実を認めるに足りる証拠はない。
さらに,控訴人は,他の金融機関の例等を引き合いに出しながら,債権者が金融業者である場合には,期限前返済する場合には残元金と現実の弁済時までの利息を払えば足りるとか,低額の損害金しか請求できないと主張するが,同主張は,金利の定め方(固定か変動か,固定にするとして何時の時点の市場金利を基準とするか,金利の高低等),期間,期限前禁止特約の有無等の重要な個別事情を捨象して一般化する見解であり,これを採用することはできない。
3 争点(3)(本件契約に法の適用ないし類推適用があるか)について
争点(3)についての判断は,以下のとおり訂正する外,原判決の「第3 当裁判所の判断」の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決12頁15行目の「差す」を「指す」に改め,同17行目から同24行目までを削除し,同25行目冒頭の「エ」を「ウ」に改める。
(2) 原判決12頁26行目から13頁25行目までを次のとおり改める。
(2) 控訴人は被控訴人に「, は,控訴人に対し,期限前返済の際には相当高額な損害金の支払義務が生ずる旨を説明する義務があったと主張する。
しかしながら,控訴人は,本件契約上,9年半の間,年3.855%の固定金利を支払うこと及び期限前返済を行わないことを約しており,その債務(返済)内容が固定化されているのであるから,収入の変動や金利動向如何といった自己の都合によりその変更を請求する権利は有しないものであって(逆に,被控訴人の側も,控訴人に対し,収益の変動や金利動向如何といった自己の都合によりその変更を請求することはできない。),ただ,被控訴人が承諾する場合に限り,期限前返済が許されるにすぎないものである。
そうすると,前記のとおり,被控訴人が,期限前返済が禁止されていること,期限前返済禁止が解除されるためには被控訴人の承諾を要すること,その場合でも被控訴人所定の方法によって算出される損害金は負担してもらうことが承諾の条件となることを説明している以上は,例えば被控訴人担当者において本件契約までの間に期限前返済禁止文言とは裏腹に低額の手数料のみで広く期限前返済に応ずるような挙動を示した等の特段の事情がある場合を除き,控訴人が本件契約によって拘束される重要な内容については,説明が尽くされており,これ以上の説明義務は存しないというべきである。
本件において,上記特段の事情を示す証拠はなく,むしろ,証拠(乙6,原審証人B)によれば,本件契約までの間に控訴人担当者から期限前返済はできない旨繰り返し説明されたものと認められる。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできず,債務不履行責任又は不法行為責任に基づく控訴人の請求も理由がない。」
4 争点(5)(被控訴人の損害金請求が権利の濫用にあたるか)について
控訴人は,同人が支払を怠って期限の利益を喪失した場合,被控訴人が控訴人に対して請求できるのは,残元本と経過利息及びこれらに対する日割りの損害金だけであることと,控訴人は誠実に債務を履行したことを指摘し,被控訴人の損害金請求は権利の濫用であると主張する。
しかしながら,控訴人が支払を怠って期限の利益を喪失した場合も,前記のとおり控訴人の債務(返済)内容は固定化されているのであるから,本件と同様の損害金を請求できると解されるし(甲3,乙20,弁論の全趣旨),控訴人が残元金と経過利息について期限前返済をしただけではその債務を誠実に履行したとはいえない。
控訴人は,本件契約上又は銀行取引約定上,期限の利益喪失の場合には,将来利息に係る損害金の請求はしない趣旨であると主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,その他,本件全証拠によっても,被控訴人の損害金請求が権利の濫用であると認めることはできない。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
5 結論
以上の次第で,控訴人の請求はいずれも棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当であるから,控訴人の本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。

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